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夜のガスパール

アメリカが生んだ最大のクラシック音楽家として知られるレナード・バーンスタイン氏は、指揮者ならびに作曲家としての活動だけでなく、音楽教育者としても多岐にわたる業績を築きました。その中でも、1958年から1972年までニューヨーク・フィルハーモニックとともに行ってきた「ヤング・ピープルズ・コンサート」(Young People's Concerts)は、本国アメリカのみならず、世界中の若者たちを対象にクラシック音楽を分かりやすく解説したテレビ番組シリーズとして、今なお高い評価を得ています。(公式サイトより)

このシリーズの際立った特徴は、バーンスタイン氏が自分で番組の台本を執筆し、司会進行と指揮を担当しながら、取り上げる楽曲を解説していくスタイルにありました。どの番組にも、随所で彼自身がピアノを弾く場面が多く見られ、彼のピアニストとしての力量を知ることもできます。当時は白黒テレビからカラーテレビへの移行期であり、早い時期に作られた番組は白黒(モノクローム)フィルムに収録されました。

今年10月14日に訪れるバーンスタイン氏の没後20周年を機会に、長女のジェイミーさんが日本の地を訪問しました。「ヤング・ピープルズ・コンサート」の番組は、当時まだ幼かったジェイミーさん(番組シリーズ開始当時は5歳)を意識しながら制作を進めていったそうです。彼の残した音楽的遺産が、今なお世界各地の隅々で力強く生き続けている。そんな話を聞くと、30年近いファンも嬉しくなるものです。(記事URL:朝日新聞より)

この記事では、1961年12月1日にテレビ初放映された第11話「印象主義って何?」を紹介します。番組で取り上げられた楽曲は、クロード・ドビュッシー(1862年-1918年)の交響詩『』とモーリス・ラヴェル(1875年-1937年)の『ダフニスとクロエ』です。

ドビュッシーの『』(La Mer)を紹介するにあたり、解説は「1度も海を見たことのない人に、海がどういうものかを教える場合、必要なのは海の“印象”です」と始まります。19世紀後半のフランスの画家たちに源を発する「印象主義」という芸術技法を、アメリカ(他の文化圏)の聴衆にも分かりやすく説明するため、バーンスタインさんはいろいろな事例をステージに持ち込みます。クロード・モネの絵画を説明するにも、当時の白黒テレビには色を説明できないもどかしさがありました。
* 第1楽章:海の夜明けから真昼まで
* 第2楽章:波の戯れ
* 第3楽章:風と海との対話

第1楽章と第2楽章の間で、ドビュッシーが用いた「印象主義」の技法を説明する際に、バーンスタインさんはいろいろなピアノ独奏曲を弾きました。
* 『』(『前奏曲集・第1巻』第2曲)-ピアノの鍵盤で「全音音階」を説明する時の例。
* 『金色の魚』(『映像・第2巻』第3曲)-ドビュッシーの和音の作り方の好例。
* 『ヴィーノの門』(『前奏曲集・第2巻』第3曲)-「複調性」の説明。2つの異なる調性を同時に使うこと。
* 『ゴリウォーグのケークウォーク』(『子供の領分』終曲)-アメリカのジャズの手法を取り入れた曲。

番組の中でこんな曲を聴くと、一ファンの私は“ないものねだり”を頭に描き、「ドビュッシー:ピアノ独奏作品集/ピアノ:レナード・バーンスタイン」を録音で聴きたかったな、と想像を膨らませてしまいます。
私があの番組を初めて録画した頃、ちょうど近くにドビュッシー好きの友人がいました。その方からの刺激に加えて、番組でバーンスタインさんのピアノ独奏を聴いたことが大きな弾みになり、あの頃の私はドビュッシーのピアノ作品のCDを片っ端から買いまくりました。

ドビュッシーの『』全3楽章の演奏が終わると、彼と並び称される印象主義の作曲家としてラヴェルの説明が始まり、1時間の番組を『ダフニスとクロエ』の演奏で締めくくります。
ラヴェルの音楽の特徴は、技巧的な要素が強いことや、古今東西の民族音楽をふんだんに取り入れた多様性にあります。技巧的要素の話の途中で「彼の華麗で難しいピアノ曲は、奏者の腕を試すテスト。私はここでは弾きません」とバーンスタインさんが言うのですが、ここから“どうして? 聴きたかったよ~”という想像がますます膨らんでいきます。
優れたピアニストとしてのバーンスタインさんは、ピアノ協奏曲で独奏と指揮を兼ねて演奏する「弾き振り」の名手でした。彼の弾き振り録音の中でも、ラヴェルの『ピアノ協奏曲 ト長調』は「ピアニスト・バーンスタイン」最高のレパートリーとして、早くから高い評価を得てきました。

ここでようやく、記事の題名『夜のガスパール』にたどり着きます。ラヴェルのピアノ曲の代表作を、バーンスタインさんのピアノ独奏で聴きたかったな…私の“ないものねだり”想像の最たるところがこの曲です。
ラヴェルが1908年に作曲した『夜のガスパール~アロイジウス・ベルトランの散文詩によるピアノのための3つの詩』は、彼のピアノ曲でもとりわけ難度の高い人気作です。アロイジウス・ベルトラン(Aloysius Bertrand, 1807年-1841年)はフランスの詩人で、彼の死後に57編からなる散文詩集『夜のガスパール』が出版され、ラヴェルはその中から3つの詩をピアノ音楽にしました。
1.水の精
2.絞首台
3.スカルボ

プロの音楽演奏者は、コンサートで取り上げるための幅広いレパートリーを修得します。しかし、レコード会社による録音は商業活動であり、ビジネスとして行われるものです。クラシック音楽家の場合、演奏者の仕事は「過去の作品の再現」を行うことであり、自分で新しい作品を生み出せるポピュラー音楽家とは活動の仕方が異なります。市場には、同じ曲を異なる演奏者が取り上げる「同曲異演盤」が無数に存在します。そのため、演奏者が録音したい曲とレコード会社の“売れる/売れない”判断基準が異なる時も多いものです。いくら多角的な活動ができたバーンスタインさんであっても、演奏家としての本業は指揮者ですから、ピアノ独奏の録音を残すことは難しかったでしょう。

もう1つの可能性は、音楽学生として厳しいオーディションを勝ち抜き、何かのチャンスをつかみ(教育音楽祭のタングルウッドなど)彼の指導をじかに受けられる場所で学び、マエストロを質問攻めにすること。
「マエストロ、あなたのラヴェルト長調協奏曲』は素晴らしい。ぜひ『夜のガスパール』をあなたのピアノでお聴きしたいのですが」→「どれどれ、夜のガスパールか…君はなぜこれを聴きたいんだ?」
世界中の音楽学生が憧れた、遠く果てしない夢。もう2度と届かない想像の世界になってから、早くも20年の歳月が流れましたが、バーンスタインさんが72年の生涯を通じてまき続けた音楽の種は、これからもずっと私たちの心に生き続けることでしょう。

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とにかく音楽が大好き。クラシック・ポピュラーのCDで自室を埋め尽くしています。

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