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ひばりとカラヤン

1989年(平成元年)は、世界各地で歴史的な変化が相次いで起きた激動の1年になりました。音楽界でも「一大音楽文化の終焉」を象徴する出来事が、この年の夏に相次いで訪れ、わずか3週間のうちに2つの大きなニュースが飛び込んできました。
* 6月24日:歌手・美空ひばりさんが死去(52歳)
* 7月16日:指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤン氏が死去(81歳)

太平洋戦争の終戦直後から歌手活動を始め、戦後の日本を代表する国民的歌手として知られたひばりさん。1989年1月7日の昭和天皇崩御により、日本の元号は「昭和」から「平成」へと移り変わりました。平成元年になってから半年足らず、6月24日に訪れた「美空ひばりさん死去」の知らせは日本全国を激震させ、昭和の終わりを象徴づける出来事と呼ばれました。
クラシック音楽に多少なりとも触れたことのある人ならば、「帝王カラヤン」の名前は誰でも知っているでしょう。我が家にも、父親が遠い昔に買い求めたカラヤン指揮のLPがありました。彼は音響技術の進歩にも多大な関心を持ち、クラシック音楽のLPやCDの普及に多大な貢献をしました。晩年は音楽監督を務めていたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との度重なる確執が取り沙汰され、1989年4月24日に自ら辞任表明を行ったばかりでした。

ひばりカラヤン」の訃報が続いた頃、私は大学2年生になっていました。受験生時代は多忙さもあり、ひばりさんと同じく昭和の国民的スターだった石原裕次郎さんの死去(1987年7月17日)でさえ、実感が薄かったほどです。大学生になって間もなく、1988年4月11日に東京ドームのこけら落としとして行われたひばりさんの「不死鳥コンサート」が大きく報道されました。当時の新聞記事を通して、彼女が「大腿骨骨頭壊死」という難病を患っていたことを知りました。翌1989年の夏には、行動範囲の自由が広がった大学生として、下宿先や実家の周辺にあるCDショップを訪ねて回り、どの店も2人の追悼コーナーの設置に追われる様子を見ることができました。クラシック音楽ファンの立場で、2人の名前をセットにしてとらえるようになり、ひばりさんのヒット曲も「川の流れのように」「愛燦燦」「悲しい酒」の3曲を覚えました。1989年度の日本レコード大賞選考にあたって、故人となったひばりさんに「金賞」を授与するかどうかが大きな議論を呼び、私もその話を興味深く読みました。こうして、ひとりのクラシック音楽ファンの脳裏にひばりさんのための場所ができました。

美空ひばりさん亡き後、指揮者の岩城宏之氏が「週刊朝日」1989年7月7日号に追悼記事を寄稿しました。同僚の最高峰にあたるカラヤン氏の死去がすぐ後に続いたとしても、世界的なクラシック音楽指揮者の立場から書かれた考察だけに、他の分野の人たちよりも興味をそそられるものでした。岩城氏はひばりさんのことを「200年分の人生を生きた芸術家、モーツァルトに匹敵する天才」と賞賛しています。その根拠として、彼は自分のひばり体験が比類のないものであったと書きました。かつてオランダのオーケストラで仕事をしていた頃、楽団員たちは他の日本の流行歌には全く関心を示さなかったのに、ひばりさんの「柔」を聴いたら一瞬にして目の色が変わったこと。岩城氏がひばりさんとラジオ東京の廊下ですれ違った時、他の音楽家たちから1度も感じたことのない凄まじさ、殺気立ったオーラに圧倒されたこと。カラヤン氏の同僚であった人が、音楽史の頂点を極めた偉人として「ひばりカラヤン」を対等に尊敬していたことを示す、貴重な評論と言えるでしょう。いつの日か機会があったら、雑誌のバックナンバーを読める図書館でコピーを取り寄せたいものです。

2009年6月24日の美空ひばり没後20周年に合わせて、俳人の齋藤慎爾(さいとう・しんじ)氏が『ひばり伝~蒼穹流謫』(そうきゅうるたく)という大著を出版しました。彼は本書の序章において、音楽家としての「美空ひばり論」にまとまったものが少ないと述べ、17ページで次のような指摘をしています。
「もっと肝心なことは、無批判に西洋クラシック音楽を崇拝し、明治以来、ずっと自国の音楽を卑下し、見下してきた私たちの精神風土の問題がある。」
私はこの一文を読んだ時、日本人が無批判に崇拝してきた「西洋クラシック音楽」を「カラヤン」に置き換えてみました。西洋クラシック音楽を絶対視するあまり、日本最高峰の音楽を過小評価するのはあまりにももったいない。「ひばりカラヤン」は決して別世界の人たちではなく、2人とも音楽史の頂点を極めた偉大な芸術家だったのです。あの夏から20年の歳月が流れましたが、2人を凌駕するような音楽家はもう2度と現れない。時代は移り変わって行きますが、2人が築いた音楽文化は、不滅の芸術として今後もずっと聴き継がれてゆくことでしょう。

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