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モイニック・モイニック

Baby_Leonard_Wanted_Music   Home_Gramophone

「モイニック・モイニック」(Moynik, moynik)とは-まだ片言しか話せない、よちよち歩きを始めた1歳くらいの赤ん坊が“ミュージック”(music)音楽を聴きたがって、お母さんにせがんだ時のお話です。
この音楽好きの赤ん坊とは、後にアメリカ最大のクラシック音楽家として君臨したレナード・バーンスタインさんのこと。彼は1918年8月25日、ロシア系ユダヤ移民のサミュエル・バーンスタインとジェニーの間の最初の子供として、マサチューセッツ州ローレンスの地に生まれました。

移民の貧しい家庭だったバーンスタイン家には、音楽的な環境は全くありませんでしたが、母親のジェニーが「ヴィクトローラ」製の蓄音機を持っていました。レナードは普段からよく泣く子供で、蓄音機の音楽が聴きたくて「モイニック・モイニック」とせがみ、お母さんが蓄音機を鳴らし始めると、すぐに泣きやんで音楽に聴き入り、いつまでも飽きなかったそうです。
幼少時から音楽に特別な感受性を示す子供だったのに、彼の周囲には「早くから素質を見抜き、何らかの方法で伸ばそうと考える」人が誰もいませんでした。両親や親族はおろか、幼稚園の教師たちさえも。もう少し大きくなると、彼はラジオの音楽番組を聴きまくるようになり、そこで当時の流行歌を覚えました。

バーンスタイン家は理髪師だった父親サミュエルの仕事の関係で、ボストン周辺の町に引っ越しを繰り返す生活を送っていました。やがて父親は「サミュエル・バーンスタイン・ヘア・カンパニー」という理髪会社を設立し、美容関連器具の販売で成功を収めて、一家は最初の貧乏暮らしから脱出できました。
ずっと音楽に飢え渇いてきた長男レナードは、11歳にして初めての楽器に出会いました。父方の叔母クララがボストンからニューヨークに戻ることになった時、兄サミュエルの家に古いアップライト・ピアノ(竪型ピアノ)とソファを置いて行ったのです。両親はソファの置き場所に気を取られていましたが、レナードはすぐピアノに熱中し始めました。ピアノの鍵盤に初めて手を触れた日のことを、彼は「音楽こそ私の人生にとって<最高のもの>だと知った」と語りました。父親サミュエルは息子の音楽熱が気に入らず、ピアノのレッスン料をめぐって息子と父親の対立が始まります。

Samuel_Bernstein_Hair_Company  Samuel_Bernstein_Opposition

サミュエル・バーンスタインがかつて住んでいたロシアのゲットー(ユダヤ人強制居住地区)には「クレズメル」(klezmer)と呼ばれる人たちがいました。ヴァイオリンやクラリネットなどの楽器を手に、町から町へと渡り歩いて演奏する職業音楽家だったそうです。日本にあったものだと「旅芸人」のイメージが近いかもしれません。息子が将来あんな“みすぼらしい”仕事に就いてはたまらない、とサミュエルは考えました。
レナードは父親の強い反対にめげることなく、レッスン料を賄うための仕事を自分で探すなど、あらゆる努力を惜しみませんでした。サミュエルが“クレズメル”になった息子の姿を想像したくなかったのと同じで、レナードも父親の跡継ぎとして“理髪師の仕事をする将来の自分”など絶対に考えられなかったのです。「自分の将来の職業は音楽家しかない。他の道など考えられない。」この思いが、少年時代のレナード・バーンスタインさんをずっと駆り立て続けました。

幼少時の「英才教育」とは全く無縁の環境で育ち、音楽への感受性を見抜いてくれる人が周囲にいなかった時でさえも、自分で音楽への憧れを育み続けたバーンスタインさんの少年時代。片言しか話せなかった赤ん坊の頃でさえ「モイニック・モイニック」とせがんだ子供は“三つ子の魂百まで”のことわざ通り、生涯の最後まで音楽一筋の人生を歩み、アメリカ音楽の歴史に燦然と輝く多方面の業績を築きました。
卓越した音楽教育者でもあったバーンスタインさんは、後輩の若い音楽家たち-大部分は幼少期からの英才教育で鍛えられてきた若者たち-に語りかける時も、自分の少年時代の経験を踏まえたアドバイスをたくさん聞かせてくれました。亡くなる3か月前、1990年7月に日本の札幌で開かれた第1回パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)で彼が語った言葉の一部を、記事の最後に引用します。
あなた自身がなりたいから音楽家になるのです。その時は、誰もあなたを止めることはできません。」

<本記事の参考文献>
1.ハンフリー・バートン著『バーンスタインの生涯』上巻・第1章-第2章(棚橋志行訳、福武書店刊/翻訳書は上下巻セット)
2.同書の英文原著(«LEONARD BERNSTEIN» written by Humphrey Burton, Doubleday, 1994)Chapters 1 and 2.

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とにかく音楽が大好き。クラシック・ポピュラーのCDで自室を埋め尽くしています。

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